音楽

Grammy Awards〜概要を解説〜

年に1度の音楽の祭典「グラミー賞」。世界各国の音楽関係者が一同に会する音楽界最高峰の賞として知られますが、ここでは、グラミーウォッチャー●十年の筆者が、簡単な概要をお届けします。

グラミー賞とは?

The Recording Academyが主宰。音楽業界の偉業を讃え、業界全体の振興と支援を目的とする賞です。世界中で最も権威のある音楽賞とされており、映画におけるアカデミー賞(1929年発足)、舞台におけるトニー賞(1947年発足)、テレビにおけるエミー賞(1949年発足)と同列。第一回は1959年のことでした。

受賞作品は、約21,000名程とされるThe Recording Academyの会員の投票によって決定されます。その中でも投票権があるのは12,000名ほどで、6枚以上の商業アルバムか、12枚以上のデジタル商業アルバムに名前がクレジットされている会員に限られます。これにより、ある一定以上のクオリティが保たれていると言えるでしょう。

対象作品は、前年10月1日〜9月30日にアメリカ国内で発売されたもの。カテゴリーは、TVでオンエアされる人気ジャンルの他、ジャズ、クラシック、コメディなど多岐に渡り、現在は75ほど(109部門以上あったものを、2012年に統合)。

授賞式は毎年2月に行われ、全米と世界各国で放送されます。地上波で放送されるのは代表的な賞&式典用のパフォーマンスで、米国内での視聴率は、スーパーボウルやオスカーに次いで、第3位。近年はLAとNYで交互に開催されていましたが、2004年からは、LAのStaplesCenterが恒久的な会場となりました。会場正面にはグラミー賞博物館が創設されており、音楽ファンの聖地となっています。

また、権威があるが故に保守的なことで有名ですが、先人や関係者の努力により、年を重ねる毎に緩和、是正されていると言えるでしょう。

グラミー賞の成り立ち

時は1950年代。ハリウッド商工会議所が「Walk of Fame」プロジェクトに取り組みだしました。これは”エンターテイメント業界で活躍した人物を称え、ハリウッドのストリートに、星型のプレートを埋め込もう”というもの。今ではハリウッドの一大観光地になっている、例の道です。

この道を作るに当たり、ハリウッド商工会議所は、各エンタメ業界の重鎮に連絡し、称えるべき人物のリストを作るように依頼。音楽業界関係者達も、リスト作成に奔走しました。しかしその最中に、気付いてしまったのです。Walk of Fameに並ぶような表舞台に立っている者、数字を打ち立てた者以外にも、称えるべき功績を残している者、縁の下で業界を支えてきた者が、多々いる事に……。

そこで彼らは、オスカーやエミー賞のような、音楽業界独自のアウォードを作る事を決意。”NARAS(the National Academy of Recording Arts and Sciences。現The Recording Academy)”という組織を立ち上げました。これは音楽関係者(ミュージャン、プロデューサー、エンジニア他、音楽業界の質&文化的土壌の向上に寄与するプロフェッショナル)のみで組織されたもので、一定以上の条件を満たさなければ会員になることはできません。こうする事で、ファン投票とは一線を画す、権威ある賞を作り出す事に成功したのです。

グラミーはこうした成り立ちがあるからこそ、「オスカー、エミー、トニー各賞と同等の扱い」等と称されます。ですから、どちらが上とか下とかは置いておいて、MTV、Billboard、AMA等とは、そもそも質が違うアウォードなのです。

The Recording Academyは、Producers and Engineers WingやGrammy University Networkなど、音楽教育やレコーディング教育のサポートを行う組織も立ち上げており、後進の育成にも余念がありません。これらのプログラムによって支えられた才能も数多いらっしゃいます。

第一回は1959年の5月4日。以降、毎年開催されるアウォードとして定着し、ノミネート、受賞作品、パフォーマンスそれぞれが、毎年大きな話題となります。

 Big Four(主要4部問)

  • Record of the Yearーシングル曲の演奏者、製作チームに授与される。
  • Album of the Yearーアルバムの演奏者、製作チームに授与される。
  • Song of the Yearーシングル曲の作詞者、作曲者に授与される。
  • Best New Artist ーその年の新人アーティストに送られる。

BigFourと称されるこれら全部門を受賞したのは、実は現時点で歴代2名。1981年のChristopherCrossと2020年のBillie Eilishです。当然ですが、Best New Artistは、デビュー年にしか受賞できないので、確率は非常に低いのです。

邦題「南から来た男」。代々木に住んでいたことがある。
Billie Eilishのデビューアルバム。

おまけ:選考基準はなんやねん問題。

「どうして●●は受賞できなかったんだ!」「大人気の●●が取れない筈がないだろう!」

世界最大の音楽賞とは言え、アメリカのアウォードです。日本での放映権は(加入者しか視聴できない)Wowowが持っていますし、一部のラジオ番組で取り上げる位のもの。これだけの歴史があっても、日本では殆ど浸透していないと言って良いでしょう。後で細切れの動画も上がりますし、例え音楽好きであっても、特筆してお好きでなければ、わざわざ見ることもないかと思います。

そこで毎年のように湧くのが、冒頭のような疑問とお怒り。一部音楽メディア以外では「本日、LAでグラミー賞が行われ、●●が受賞しました」程度しかお届けされない為、疑問に思う方がいらっしゃるのも当然です。

上記でも簡単に説明しましたが、グラミーはファン投票ではございません。音楽業界のプロが投票に携わっているものです。例えば、美術においてはキュレーターさん等が、文学賞においては文学界の選定された方が、広く深い知識と経験のもとで価値を見極め、評価を下します。これらと同様、The Recording Academyでは、プロの音楽関係者の投票に限定することによって、音楽の価値を見極め、正しく評価しようとしているのです。

もちろん、あらゆる芸術は主観であり、「良い・悪い」に「好き・嫌い」「時代の空気感」「内部の政治」などの要素が加わる上、絶対に消えることのない社会構造的な問題もあるので、受賞者、受賞作品、ノミネーション等には、業界関係者からも、ファンからも、賛否両論が巻き起こります。特に言われ続けているのが、人種格差や男女格差の問題。白人ばかりが受賞する、男性ばかりが受賞する(そもそも裏方に女性が少なすぎる)、特権階級様が受賞する……結果、受賞者の売り上げ等の数字が伸び、社会構造が永遠に変わらないままとなる……社会や企業や他のアウォードと同じで、そんな問題も多々ございます。

しかし、少なくともファン投票、売り上げ枚数などで選ばれる他の賞(AmericanMusicAward、MTV関連など)よりは、一定の質を保ち、日の目を見ない関係者を讃えることができていますし(ファン投票等の場合は、その時に人気のPOPアイドルばかりが目立つこととなります)、良くも悪くも社会への影響力を持ち、論争を巻き起こせている点において、やはりグラミーにはグラミーの価値があるかと思います。

極論、音楽関係者(主にレコード会社)は気にすれば良いですが、一般視聴者は、ただただ楽しめば良いと思っております。

黒人アーティストとして壮絶な戦いを繰り広げてきたMichaelJackson、1988の伝説的なステージ。マイケルは人類の義務である。
Best Engineered Album for Colors by Beck(2019)で初めて女性エンジニアが受賞。She's in the mix!!!!!男だらけの世界の中で、よくぞここまで来たものです…泣ける。

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